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プロダクションノート

PRODUCTION NOTE

『ゾッキ』川原伸一プロデューサーのこぼれ話

竹中直人・山田孝之・齊藤工の3人監督体制、愛知県蒲郡市で全編ロケ、俳優・ミュージシャン・芸人といったバラエティ豊かなキャスト陣……。他に類を見ないレアな要素がそろった『ゾッキ』の現場は、どのようなものだったのか? 撮影に立ち会い続けた川原伸一プロデューサーが、その舞台裏を語る。

3監督それぞれのこだわり・役者との向き合い方

「竹中直人監督はチームリーダーとして全体を引っ張ってくれた」と振り返る川原伸一プロデューサー(以降、川原P)は、竹中監督は“気遣いの人”でもあったと明かす。ある青年が、消息不明の父と体験した幼い日の奇妙な出来事を振り返るというストーリーである、竹中監督が担当した『父』というパートで、マネキン役に挑戦した松井玲奈とのひとコマ。「マネキン用に松井さんの型取りを行っている最中、竹中さんがしきりに『怖くない? 大丈夫?』と心配されていたのが印象的でした。竹中さんご自身も『ヒルコ 妖怪ハンター』(91)で型取りを経験されているからこそ、松井さんの不安がわかったんだと思います」。

また、山田孝之監督は「最も役者に寄り添っていた監督なのでは」との印象を抱いたそう。「ご自身の役者としての目線で、出演者の方々と接されていたように感じました。特に松田龍平くんとの“同世代感”がすごくありましたね。ただ、馴れ合いではなくお互いに『監督と主演俳優』の距離感で見つめ合っていた感じはありました」。
川原Pは、「山田監督はロケーションにもすごくこだわっていた」と証言する。一人の男が、アテがないというアテを頼りに、ママチャリで“南“を目指すというストーリーである、山田監督が担当した『Winter Love』のパートは、橋をバックにした美しいロングショットが登場するが、「事前にしっかりロケハンをこなしたうえで、風景にインスパイアされてあのシーンが生まれました。蒲郡という土地で撮影することはもちろん、風景の中に松田龍平くんが溶け込んでいる様子を映したかったのだと思います」。

反対に、「齊藤工監督は監督目線で、ご自身が演出した際の着地点がすごく見えている」と評する。「3監督の中で、一番テイク数が多かったのは齊藤監督です。自分の思い描いたシーンや芝居が出るまで、何度も撮り直していましたね」。

齊藤監督はメガホンをとった、ある少年がやっとできた友達から“いるはずのない自分の姉”に恋をしたと告げられ頭を悩ませるというストーリーである、『伴くん』のパートは、自らドローン撮影も担当しており「齊藤監督には『どの高度まで飛ばしたい』という完成形のイメージが明確にありました。かなりの高さで操縦は大変だったかと思いますが、見事に撮影されていました」。その腕前には、現場のスタッフも感嘆していたそうだ。

齊藤監督は、お笑いコンビ「コウテイ」の九条ジョーを起用するなど、キャスティングにも個性を発揮。川原Pは「森優作さんも齊藤監督の指名です。彼が出演した舞台を観て、決めたそうです。作品にとって、彼らなしではありえなかったといえるくらいハマっていましたね。お笑いに演劇に、齊藤監督のアンテナの幅広さはすごい」と舌を巻く。

なお、齊藤監督は演技未経験の九条をバックアップするために、現場に音楽をかけて演技をバックアップしていたそう。「ただ、九条さんが映画の演技をつかんでからは、すごく信頼して任せていましたね。九条さんが演じた伴くんは、坊主頭にしなければいけない役柄。九条さんは髪形が芸人としてのアイコンでもあったかと思いますが、断髪を快諾してくれました。その部分からも、この映画にかける気合を感じました」。

役者側の熱意もすさまじかったキャスティング秘話

各監督のこだわりが表れた、『ゾッキ』のキャスティング。そのオープニングを飾るのが、人気実力派の吉岡里帆だ。彼女が牛乳を吹き出し、本編が幕を開けるが、このシーンは竹中監督にとっても“肝入り”だったそう。「あのシーン、吉岡さんの演技は一発OKでした。撮影初日でもあったので、ガッとエンジンがかかった感じでした」。

川原Pが、竹中監督の意図が功を奏した、と語るのは鈴木福の起用。「彼自身も、子役から成長した役者の過渡期にあって、今回の役が絶妙にマッチしていました。竹中監督も『直接オファーする』くらいの勢いでしたし、役者に役柄をきっちりハメる竹中監督の手腕を感じましたね」。

また、倖田來未に関しても「役者をやってくれるのだろうか……と恐る恐るオファーしたところ、『竹中さんがお声がけしてくださるなら』と二つ返事で快諾いただきました。本人もすごく喜ばれていましたね」と明かす。

「ちなみに、BLANKEY JET CITYのメンバーだった中村達也さんもワンシーンだけ出演しています。これは、彼から竹中監督に『どうしても出たい』と逆オファーがあって実現したんです(笑)。松井玲奈さんも『この役だから出たかった』とおっしゃってくれましたし、出演者の皆さんからも並々ならぬ熱意を感じましたね」。

俳優活動も精力的なミュージシャン、竹原ピストルについては「この映画を象徴する人だなと思ってしまうくらい、存在感があった」と述懐する。「いい加減な感じのお父ちゃんが嫌味なくできちゃうし、竹原さん自身もボクシング経験者ということもあって、サンドバッグを殴るシーンもリアリティがありました。竹中さんの作る世界観にすごく合っていましたね」。

それぞれの監督のパートが繋がるコンビニでのシーンで、存在感を発揮しているのは松田龍平。「牧田に対して小さく頷くカットですごく微妙な笑顔をするのですが、あの顔は松田龍平くんしかできないと思いますね」と絶賛した川原Pは、くだんのシーンの舞台裏を振り返る。「この場面は、3監督がじっくり話し込んで作っていきました。お互いの演出は尊重しつつ、重なるところを慎重に見極めていった形ですね。監督たちの“我”と“リスペクト”の両方が出たシーンかと思います」。

地域の人々による炊き出しや手書きのメッセージに感激!

川原Pが撮影時の思い出に挙げたのは、竹中監督や山田監督を含む、各スタッフが集ったボウリング大会。急遽スケジュールが空いた折に企画されたもので、一致団結するイベントになったそうだ。「チーフ助監督が発案してくれたのですが、おかげでみんなリフレッシュできたし、おかげでその後の撮影でも撮りこぼすことなく、最後まで走り切れました」。

また、蒲郡との地域密着プロジェクトでもある本作ならではの、ほほ笑ましいエピソードも。

「監督もキャストも、撮影後に飲み歩いていて、僕らプロデューサー陣とばったり出くわすことがよくありました(笑)。カウンターに6人座ったら満席のようなこじんまりしたお店で飲んでいたら、ドアが開いて齊藤監督が入ってきて、一緒に飲みましたね。本当に蒲郡の町にはお世話になったし、溶け込んでいたと思います」。

川原Pは、「ケータリングも本当に手厚かった」と感謝を述べる。「地元名産の、アサリをたっぷり使った『ガマゴリうどん』を炊き出しで出してくださったり、おいしいみかんを用意してくださったり、お弁当に毎回『頑張ってください』などの手書きのメッセージを添えてくださったりと、本当に至れり尽くせりでした。映画の撮影現場において、温かいものを頻繁に食べることができる機会は少ないんです。寒い時期の撮影だったため、キャストやスタッフ陣もすごく喜んでいましたね」。

町全体が協力体制だった『ゾッキ』の撮影環境

実際の撮影においても、蒲郡の人々のお陰で成立したものが多かったのだとか。

「齊藤監督のパートでは主人公の家が必要だったのですが、役所の方のお知り合いの家を貸してくださったり、撮影場所の近くにトイレがなかったときは、家主が入居する前の新築の家を食事場として使わせてくださったり、人と人のつながりを感じさせることばかりでした」。

このように地域と二人三脚で映画を作ることができたのは、and picturesの伊藤主税プロデューサーによるところが大きかった、と川原Pは語る。「伊藤さんは、地方で映画を撮る活動をずっと行ってきて、『ゾッキ』で大きく結実したように思います。通常は観光課の一部であるフィルムコミッションが窓口になってくれる程度ですが、今回は市長が先導する形で地元商工会も一体となっていろいろなサポートをしてくれました。監督の皆さんも、すごく感謝していました。映画の撮影は、時としてその土地に住んでいる方々の日常を止めてしまう場合があるので、歓迎されないことも少なくないんです。でも『ゾッキ』は、蒲郡市全体が受け入れて、応援してくれたんですよね」。